映画レビュー

『ヤコブへの手紙』監督;クラウス・ハロ

 

赦により刑務所を出たレイラの感情を失ったような表情と全盲の老牧師ヤコブの慈悲深い表情の対照性。そして、郵便配達人の朴訥として怯えたような人間的な表情。その三者の立体的な描写がフィンランドの田舎の風景をバックに実にいい。

郵便配達人はヤコブの元へ毎日のように手紙を届ける。神の救いを求める人々からの「ヤコブへの手紙」である。その手紙をヤコブに代わって読むレイラ。その一つひとつの手紙に聖書から言葉をひきながら答えるヤコブ。レイラはその言葉を手紙に書き返信する。この二人の単調なやりとりが、ヤコブとレイラの表情の対照性によって、周囲の紅葉のように深い味わいを醸し出す。

愛を知らないで育ったレイラと神の教えを伝えることが唯一の役割と信じるヤコブ。しかし、二人の元に郵便配達人から手紙が届かなくなったとき物語りは急速に動きだす。死期が迫るヤコブの変調。そのヤコブを冷たく見つめるレイラ。そしてレイラに向けられた郵便配達人の猜疑的な視線。

役割を終えたはずのヤコブが教会で眠っている。その目に天井から雨漏りした水滴が落ちる。最後の役割を神がヤコブに与えたのだ。
手紙が届かないことを知ったレイラがとった行動は意外なものだった。それはレイラがヤコブによって人間への信頼を取り戻しつつあることを示している。届いていない手紙を読むレイラ。その行動を理解したヤコブが立ち上がったときレイラは語り始める。自分の物語りを。

美しい物語りである。ラストは涙がとまらなかった。

文;宇都宮 保